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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8014号 判決 1982年12月17日

原告

小野田博

右訴訟代理人

板垣吉郎

田中憲彦

武笠正男

被告

学校法人昭和大学

右代表者理事

川上保雄

右訴訟代理人

鈴木俊光

主文

一  被告は原告に対し、金三〇万円及びこれに対する昭和五一年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一一三一万一八八九円及びこれに対する昭和五一年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告は肩書地に付属病院(以下「付属病院」という。)を有する学校法人であり、原告は昭和五一年一一月五日、右付属病院の歯科において、左奥下顎智歯(親不知)の抜歯手術を受けたものである。

2  診療の経緯

(一) 原告は昭和五一年一一月初めころ、診察を受けた歯科医の福田医師から左奥下顎智歯が逆に生えているため、現在の生活に支障はないが将来歯槽膿漏になることも考えられるので抜歯した方がよい旨指示された。

(二) 原告は同年一一月五日、付属病院歯科医師林義彦の診察(初診)を受け、直ちに右親不知の抜歯手術を施術された。当初、林医師が一人で槌でたたいて歯を抜こうとしたが、容易に抜けず、途中から他の医師の介助により、原告の頭を押え、歯肉を裂いて歯を露出させ、そこを槌でたたいて抜いた。手術には約二時間を要した。

(三) 原告は右抜歯時まで体に全く異常がなかつたのに、抜歯直後から夜悪寒がする、吐気がする、目の前が黄色く見える、手が震える、下顎がズキズキ痛む等の症状が出現したほか、夫婦生活も不能の状態に陥つてしまつた。

(四) そこで原告が東京歯科大学で診察を受けたところ、下顎の骨が折れており、しかも抜歯手術をした歯の骨片が歯肉に残つた状態で傷口が縫合されていたことが判明した。

(五) 原告は、昭和五二年二月一二日被告の負担において付属病院に入院し、同月一四日、下顎骨骨折部の固定及び骨片の除去手術を受けた。右手術後の入院中、原告は付属病院の医師から三叉神経麻痺、頸椎捻挫との診断を受けた。

(六) 原告は右手術後、前記の症状がわずかながら軽減したのみで、現在に至るも同様の症状に苦しんでおり、野口整形外科病院で頸椎不安定症との診断の下に通院加療中である。

3  被告の責任

(一) 原告と被告との間には、原告が付属病院において診察を受けた時点において、診療契約が成立した。右診療契約に基づき、被告は善良なる管理者の注意をもつて診察及び治療を行い、最善の医療行為をすべき義務があるのにこれを怠り、抜歯の際、無理に抜こうとし、下顎骨骨折及び頸椎捻挫を生ぜしめるほど強く打撃を加えるという拙劣な手術を行い、原告に損害を与えた。したがつて、被告は債務不履行責任を負う。

(二) 被告の付属病院の医師は右のとおり、拙劣な手術を行い、原告に損害を与えた。したがつて、被告は原告に対し、民法七一五条に基づく責任を負う。

4  損害

(一) 入通院慰謝料金一五〇万円

原告は、被告の右の債務不履行又は不法行為による傷害により、昭和五二年二月一二日から同年三月二六日まで付属病院に入院し、退院後、現在に至るまで、最初の五か月間は一週間に三回、その後の八か月間は一週間に二回、その後現在に至るまでは一週間に一回の各通院治療を余儀なくされている、右の長時間にわたる入通院による原告の苦しみを慰謝するためには、少くとも金一五〇万円が相当である。

(二) 治療費

原告は野口整形外科病院において昭和五四年八月現在まで少くとも二〇〇回を超える治療を受けた。一回の治療費を最低一五〇〇円とすると、右治療費の合計額は金三〇万円を下ることはない。原告は本訴において右の内金二二万八〇〇〇円を請求する。

(三) 後遺障害慰謝料

原告の前記症状等は、後遺障害等級九級に該当するものであり、原告の右苦痛を慰謝するには金一五〇万円が相当である。

(四) 逸失利益

原告は目黒区役所に勤務する地方公務員であり、昭和五一年度の受取給与額は金五二九万二二一八円であり、労働能力喪失率を三五パーセント、同期間を五年間として新ホフマン係数を乗じて計算すると、得べかりし利益は金八〇八万三八八九円となる。

よつて、原告は被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、右損害金計金一一三一万一八八九円及びこれに対する昭和五一年一一月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)のうち、原告が福田医師の診察を受けたことは認めるが、その余の事実は知らない。

(二)  同(二)の事実は認める。

(三)  同(三)のうち、抜歯直後から夜悪寒がする、吐気がする、下顎がズキズキ痛む症状が出現したことは認めるが、その余の事実は知らない。

(四)  同(四)のうち、原告が東京歯科大学で診察を受けたこと、その結果、下顎の骨が折れていたことが判明したことは認めるが、その余の事実は否認する。歯の骨片が残つていたのではなく、歯槽骨の骨片が残つていたものである。

(五)  同(五)のうち、原告が昭和五二年二月一二日、被告の負担において付属病院に入院し、同月一四日、下顎骨骨折部の固定及び骨片の除去手術を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六)  同(六)の事実は知らない。

3  同3(一)及び(二)の事実は否認する。本件において、術式、方法には誤りがなかつた。被告の診療上の過失は、下顎骨骨折のあつたことに気付かず、骨折に対する処置が遅れた点にある。しかし、これも、再手術により完全に治癒している。

4  同4のうち、原告が昭和五二年二月一二日から同年三月二六日まで付属病院に入院していたことは認めるが、後遺症の存在、損害額については争う。

三  被告の主張

1  原告が最初に被告の病院に来院した当時、原告の歯の状態は、「埋伏智歯」(親不知が顎骨内にもぐりこんで横倒し(水平)になつている状態)があるため、智歯周囲炎(炎症を繰り返す慢性的なもの)を起こしていた。

右のような場合、治療方法としては特に全身状態が悪いとか、その他手術に適応しない状態でない限り、手術により原因を除去する方法がよいとされている。

本件において、原告を最初に診察した開業医の福田栄一医師は抜歯適応と考えて被告に手術を依頼してきたし、被告も診察の結果、福田医師の診断と同一の結論を得たので抜歯手術をしたものである。

2  手術の術式は通常の方法による埋伏智歯抜去術であり、その方法は、第二大臼歯頬側及び埋伏歯上部に切開を加え、骨膜を剥離し、埋伏智歯周囲の歯槽骨を骨ノミで削除し、さらに歯牙をノミ及びタービンで分割し、鉗子及びヘーベルで抜去するというものであつて、術式につき何ら不当な点はない。

四  被告の主張に対する認否いずれも否認又は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

二診療の経緯について

1  請求原因2のうち、原告が福田医師の診察を受けたこと、原告が昭和五一年一一月五日、付属病院歯科医師林義彦の診察(初診)を受け、直ちに親不知の抜歯手術を施術されたこと、当初林医師が一人で槌でたたいて歯を抜こうとしたが容易に抜けず、途中から他の医師の介助により、原告の頭を押え、歯肉を裂いて歯を露出させ、そこを槌でたたいて抜いたこと、手術には約二時間を要したこと、抜歯直後から原告に夜悪寒がする、吐気がする、下顎がズキズキ痛む症状が出現したこと、原告が東京歯科大学で診察を受けたこと、その結果、下顎の骨が折れていたことが判明したこと、原告が昭和五二年二月一二日、被告の負担において付属病院に入院し、同月一四日、下顎骨骨折部の固定及び骨片の除去手術をしたことは当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に<証拠>を総合すれば、次の各事実を認めることができ<る。>

(一)  原告は昭和五一年一〇月二九日、係りつけの歯科医福田栄一から左奥下顎の智歯(親不知)を抜歯した方がよいと指摘されて被告の付属病院歯科を紹介され、同年一一月五日、同病院歯科において診察(初診)を受けた。

(二)  原告を診察した林医師は、右親不知が顎骨内にもぐりこんで横倒しになつて(いわゆる水平埋伏智歯)いて炎症が起こりやすい状態であつたので、直ちに、これを抜歯する手術を実施することとした。その際、原告の健康状態、過去における抜歯の経験等について型通りの問診を行い、原告から回答を得たが、原告が福田医師撮影のレントゲンフィルムを持参し提出したので、あらためてレントゲンによる写真撮影は行わなかつた。

(三)  抜歯手術は林医師が担当し、当初一人で行うこととした。そして、患部に麻酔を施した後、通常、埋伏智歯の抜去に用いられている術式に従い、第二大臼歯頬側及び埋伏歯上部に切開を加え、骨膜(歯肉)を剥離し、歯槽骨を露出させ、骨ノミを使用し、これを槌でたたいて歯槽骨を削除したうえ、智歯を鉗子及びヘーベルで抜去する方法によつた。ただ、抜去対象の智歯が前記のような状態にあり、場所的にも施術の困難な位置にあつたため、林医師一人では容易に抜歯することができず、途中から一ないし二名の医師が助手として原告の頭を診察台の安頭台部分に押しつける等の介助をすることにより、ようやく抜去した。右手術には約二時間を要した。手術中に、骨ノミを槌でたたいたり、鉗子等で抜去する際に相当の衝撃が加わつたこと等もあつて原告は、しばしば、痛みや不快感を訴えた。

(四)  右手術の後、同月六日に原告は口内の洗滌を受け、同月一〇日に診察を受けた際、原告が咬み合わせがうまくいかないこと及び左側下顎全体の神経の異常を訴え、また左側顎角部に腫脹がみられたので、付属病院歯科では化膿止めや消炎剤を投与した。同月一二日には抜糸を施したが、原告が下顎部全体の麻痺感を訴えたので、神経麻痺に対する薬剤、ビタミン剤等を投与した。同月一三日以降も原告は下顎部の不快感、軽い疼痛、神経麻痺のほか、夜悪寒がする、吐気がする等の症状をしばしば訴え、二、三日毎に付属病院歯科の診察を受けた。原告を診察した歯科の医師(主に林医師及び木村義孝医師)は神経麻痺に対する薬剤等を与えたが、それ以上の措置は何ら講じなかつた。

(五)  原告は右のような症状が回復しないので、昭和五二年一月に入り、知人の紹介で東京歯科大学付属病院で診察を受け、レントゲン撮影の結果、下顎骨が骨折していること及び歯槽骨の骨片が歯肉部に残存していることが判明した。東京歯科大学から右骨折について連絡を受けた被告の付属病院歯科では、同年二月七日あらためてレントゲン撮影を行い、下顎骨骨折(ヒビが入つている状態)と埋伏智歯の腐骨片の残存を確認した。そして被告の負担において原告を付属病院に入院させ、腐骨片の除去及び下顎骨骨折部の固定のための手術を行うこととした。

(六)  同月一二日、原告は付属病院に入院し、同月一四日、同病院外科において、まず、左側智歯部腐骨片除去及び歯槽骨整形術を行い、次に下顎部の顎間固定術を実施した。

(七)  右手術後、原告は頭痛、悪寒を訴え、また左顎角部に軽度の腫脹がみられた。右腫脹は日時の経過により軽減していつたが、原告はさらに不眠や、体全体のしびれ感等を繰り返し訴えた。ただ不眠については、原告が良く眠れなかつた旨申し出た晩の中には、看護婦が見回りをしたところによれば良く眠つていたこともあつた。

(八)  原告の訴えが多いため、付属病院では同年三月一日に第一内科で原告を診察したが、特別な所見が得られなかつた。さらに同月八日には整形外科の医師が原告を診察した。整形外科の医師は種々の検査を行い、その結果、頸椎の四番目と五番目の間に不安定性があり、後屈時における動的脊椎管狭窄が認められる(病名としては頸部脊椎症とした。)外、特に異常はない旨の診断を下した。

(九)  同月一六日には原告は左側の耳痛を訴え、耳鼻科で受診した。耳鼻科の医師の診断では、左耳管性耳鳴及び耳管狭窄症とのことであつた。

(一〇)  その後も、原告は不眠や気分不良を訴えた。同月二六日、原告は、付属病院の整形外科で再度受診し、検査を受けまたレントゲンによる写真撮影を受けた結果、動的脊椎管狭窄による頸椎不安定症ありとの診断が下された。そして、同日原告は付属病院から二週間分の消炎鎮痛剤、抗神経ビタミン剤、精神安定剤を受け取り、同病院を退院した。

(一一)  同月二八日に原告は野口整形外科で初めて診察を受け、頸椎不安定症と診断された。原告は、同外科に当初のころは週三回、後に回数を徐々に減らし昭和五四年ころは月に一ないし二回通院していた。同病院では、装具治療、超短波療法、徒手矯正術、牽引療法等の治療を受けた。

3  以上の事実によれば、原告は被告の付属病院において左下顎智歯(親不知)の抜去手術を受けた際、右智歯が顎骨内にもぐりこんで横倒しの状態になつているいわゆる水平埋伏智歯であつて容易に抜去することができなかつたため、手術中に骨ノミを槌でたたいたり、鉗子で抜去するときに相当強い衝撃を加えられ、その結果、原告の下顎骨が骨折した(ヒビが入つた)ほか、歯槽骨の骨片が歯肉部に残存したこと、そのため、原告には付属病院において腐骨片の除去及び下顎骨骨折部の固定のための手術を受け、下顎骨骨折及び骨片の残存という状態が除去されるまで左側顎角部の腫脹、下顎部の神経麻痺、咬み合わせの不良、不快感等の症状が出現していたことが認められる。

4  原告は、付属病院歯科が施術した抜歯により、原告に頸椎捻挫という症状が出現した旨主張する。しかしながら、頸椎捻挫の症状が出現したとの主張に副う<証拠は>たやすく採用することができ<ない。>

また、前記認定事実によれば、被告の付属病院の整形外科では頸部脊椎症、野口整形外科では頸椎不安定症との診断をそれぞれ下していることが認められる。そこで、被告の付属病院歯科による埋伏智歯抜去手術により右頸部脊椎症又は頸椎不安定症が出現するに至つたとの原告の主張について検討するに、動的脊椎管狭窄により頸椎の四番目と五番目の間に不安定症があるとの症状が右埋伏智歯抜去手術の後になつて初めて出現したことを認めるに足りる証拠はない。なお前記認定事実によれば、右手術後、原告に悪感、不安感、下頸部の麻痺等の自覚症状が出現したことが認められるが、右の症状は智歯部に腐骨片が残存し、かつ下顎骨が骨折していたことによるものであるということができ、頸椎に不安定性があることを原因とする症状であると推認することはできない。したがつて被告の埋状智歯抜去手術と頸部脊椎症又は頸椎不安定症との因果関係を認めることはできないといわなければならない。

三被告の責任について

そこで、前記二3認定の原告の被害(症状)について被告の担当医師に過失があつたか否か検討する。

1 原告は、抜歯の際、無理に抜こうとし、下顎骨骨折になるほど強く打撃を加えるという拙劣な手術を行つた点に過失がある旨主張する。

しかしながら、前記認定によれば、林医師らによる埋伏智歯抜去手術の術中に、原告はしばしば痛みや不快感を訴えたことが認められるが、右手術において林医師らが採用した手術の方法に特に責められるべき点は存しない。確かに、林医師らの手術において、歯槽骨を骨ノミで削除したとき或いは智歯を鉗子及びヘーベルで抜去したときに下顎骨にヒビが入る程度の相当の打撃が加えられたと推認することができるが、<証拠>によれば、抜歯等の手術の際、下顎骨が骨折することは一般に広く見受けられることではないものの、全く稀有な事例ではなく、埋伏智歯の状況、患者の口腔内の状況、年令等の条件により、通常の術式を採用してもなお下顎骨にヒビが入ることは避けられない場合があると認められる。したがつて、手術の方法につき、林医師らに過失があるとの原告の主張は採用することができない。

2 しかしながら、前記認定事実によれば、右手術の後、原告が被告の付属病院歯科の医師に対し、下顎部の軽い疼痛、不快感等を繰り返し訴えていたのにもかかわらず、原告を診察した医師は神経麻痺に対する薬剤等を投与したものの、それ以上に原告の愁訴に対しその原因を詳しく調査しようとせず、東京歯科大学付属病院で下顎骨骨折等が発見され、その報告を受けてはじめてレントゲン撮影を行うまで漫然と原告の訴えを放置したことが認められ、担当医師にはこの点につき過失が存するといわなければならない。

3  よつて、被告は被用者たる付属病院歯科の医師の右過失により原告に生じた損害につき不法行為責任を負う。

四原告の損害について

1  原告は、被告の右不法行為に基づき原告が入通院を余儀なくさせられた精神的苦痛による慰謝料を請求している。

既に、説示したとおり、被告の過失のある行為により原告の下顎骨が骨折し、また歯槽骨骨片が残存し、付属病院で下顎骨固定及び腐骨片の除去のための手術を受け、退院するまで下顎部の疼痛、不快感、咬み合わせ不良等が出現し、そのために原告は精神的苦痛を受けたことが認められる。そして、右精神的苦痛の原因である傷害等の程度、最初の抜去手術から矯正のための手術そして退院に至るまでの期間、右矯正手術により下顎骨骨折及び骨片の残存という状態は解消されていること、右矯正のための入院及び手術費用は被告が負担していること等を総合勘案すると、右精神的苦痛を慰謝するために被告が支払義務を負う金員は金三〇万円とするのが相当である。

2  原告は右のほか、(一)被告の付属病院を退院した後も頸椎捻挫という障害が存し、これの治療のために野口整形外科に通院を余儀なくさせられた期間の精神的苦痛に対する慰謝料、(二)野口整形外科において支払つた治療費、(三)後遺障害慰謝料、(四)労働能力喪失を理由とする逸失利益の各支払を求めている。

しかしながら、前記二認定のとおり、被告の不法行為により、原告が蒙つた損害は右1で述べた点に限られるのであつて、その外に頸椎捻挫という障害を受けたことを認めることはできないし、また原告に被告の不法行為を原因とする後遺障害や労働能力喪失の事実を認めることはできないから、右損害に関する原告の右主張は理由がないといわなければならない。

五以上の次第であるから、その余について判断するまでもなく、原告の本訴請求は、原告が被告に対し慰謝料金三〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五一年一一月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(吉野孝義)

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